レアル・マドリード、アーセナル、ACミランなどメガクラブが獲得に名乗りを上げたRBザルツブルクのドミニク・ショボスライ。しかし、ハンガリー代表の若き10番が選択したのは、同じレッドブル・グループ内での「昇格」だった。
オーストリアからドイツへプレーの場を移したことで注目度は格段に増す。そこで今回は、そんな彼のRBザルツブルクでの歩みや、ストロングポイント、改善すべき課題などを書いていこうと思う。
期待外れからMVPに
母国のクラブで1990年代からプレーの経験があるプロフットボーラーだった、父ゾルト・ショボスライはハンガリーの育成制度を疑問視。そこで、ドミニクを16歳になったタイミングで国外移籍させることを決断した。その選んだ行き先がRBザルツブルクだった。
「RBザルツブルクのアカデミーでほとんどのことを学んだ」と語るショボスライは、セカンドチームのリーフェリングで頭角を現し、これが当時トップチームの監督だったマルコ・ローゼ(現ボルシアMG監督)の目に止まる。指揮官はELのナポリ戦というビッグゲームで彼を先発させ、その期待にアシストで応えた。
翌19/20シーズンでは、本格的にトップチームに帯同。監督は現在のジェシー・マーシュに変わり、クラブ史上初めてCLを戦うという、チームにとっても、ショボスライにとっても重要なシーズンが幕を開けた。
しかし、ショボスライは開幕当初マーシュが基本布陣としていた[4-2-2-2]の適応に苦しむ。ローゼ政権時は中盤がダイヤモンドである[4-3-1-2]の左でプレーしていたが、よりプレッシャーのかかるダブルトップ下に置かれた彼のパフォーマンスは、ほかのレギュラーアタッカー陣(ハーランド、ファン・ヒチャン、南野拓実)と比べて低調なものだった。重要な試合では真っ先に交代となることが多く、奥川雅也ら控え組の突き上げを食らい、ポジションを失いかけた時期もあった。


そんな期待外れのシーズンを過ごしていたショボスライにとって転機となったのが、新型コロナウイルスによる中断だ。
彼は3ヶ月ほど中断となった期間に、同じハンガリー人で競泳コーチのシェーン・テュサップを個人コーチとして雇った。テュサップは、後に妻となる競泳選手ホッスー・カティンカの不振に陥っていたキャリアを、リオ五輪で金メダルを獲得するまで復活させた実績を持つ。ショボスライは名コーチの元、肉体的にも精神的にも向上を図ったのだった。
その効果は数字として明らかになる。コロナブレイク明けの全11試合に出場したショボスライは、8ゴール11アシストという驚異的な記録で大暴れ。中断前の淡白なイメージは嘘だったかのように、そのままオーストリア・ブンデスリーガの年間MVPに輝いた。
ショボスライは今季もそのハイパフォーマンスを持続。昨冬にクラブを去ったハーランドと南野に加えて、今夏にはファン・ヒチャンもRBライプツィヒへ移籍。そんな中で、彼が攻撃の牽引役となっていった。
ストロングポイント
では、彼の武器は一体何なのか。
やはり、まず挙げられるのが正確なキックだろう。長短の高精度なキックでのチャンスメイクを得意としており、セットプレーでもその威力は発揮される。直接フリーキックでは、カーブボールと無回転を蹴り分けることが出来るのは大きな強みだ。
次に、テクニック。身長186cmながら足技に優れ、得意な左ハーフスペースの位置でボールを持てば期待感が高まる。昨季はルーレットで相手をかわしてミドルシュートを叩き込んだこともあった(動画の2:50〜)。
そして、パーソナリティ。今日のレッドブル帝国を築き上げたラングニックは、獲得する選手の能力としてパーソナリティも重視する。先に述べた、彼が個人コーチを雇いトレーニングに励んだ向上心は、まさにRBグループでプレーする上で重要なことなのだ。
ウィークポイント
逆に懸念材料はどこになるか。
一つはプレス耐性にあると考える。2列目や2.5列目を主戦場とするショボスライは、相手から大きなプレッシャーを受ける。そこで、ライン間のような狭いスペースでボールを受けると、ロストしてしまう場面が散見される。持ち前のテクニックでかわすこともあるが、例えば同じ長身MFのポール・ポグバのようなフィジカルや足首の柔らかさは持ち合わせていないため、オーストリアよりも圧力が強いドイツでは”狩り所”とされてしまう危険性があるかもしれない。
二つ目は守備者としてのフィルター能力だ。マーシュは、ショボスライがステップアップした先で活躍するには、フィジカルのさらなる向上が必要と語っている。ロングでもショートでも正確なパスを出せる彼は、一見セントラルMFで起用されてもおかしくない特長を持っているが、3列目のコントロールタワーには、彼ではなくユヌゾヴィッチが使われていることは、ディフェンス面での弱みが影響していると考えられる。
RBライプツィヒでの起用方法
大きな長所もありながら、まだ成長過程の若手ということもあって、どのポジションでも懸念されるところがあるショボスライ。では、ナーゲルスマンは彼をどのように起用するだろうか。少し推察してみたい。
とりあえずは、単純に2列目として使うことは当然考えられる。フォルスベリ、ダニ・オルモ、ヌクンクのように10番の役割を与えてストロングを出してもらえるようにするだろう。
また、毎試合のようにフォーメーションを変えるナーゲルスマンなら、[4-3-1-2]や[4-3-3]のインサイドハーフもある。個人的には、現状ショボスライの強みを出し、弱みを隠すにはこれが最善なのではないかと思っている。
そして最後は6番ポジション、つまりアンカーでの起用だ。現在RBライプツィヒでこのポジションに多く使われるのは、ザビッツァーやカンプルのような元々セカンドトップやトップ下だった選手。先程ショボスライのフィルター能力について述べたばかりだが、ナーゲルスマンならそれを踏まえた上で、彼を「アメフトのQB(クォーターバック)」のような”散らし役”として抜擢する可能性はゼロではないはず。
長い目で見るべき
メガクラブが争奪戦を繰り広げたことで、大きな期待を背負ってライプツィヒに上陸するハンガリーのヤングスター。
だが、同じようにRBグループ内移籍をしたライマーやハイダラがフィットするのに時間を要したように、彼に対しても長い目で見るべきだろう。それをするだけの価値とポテンシャルがあることは間違いないのだから。
昨季ハーランドをドルトムントに持っていかれたことで、RBライプツィヒとしては何としてでもショボスライは確保したいという意志があったようですね。イケメンなのでユニフォーム買いたいです。